ゆりかごで眠れ


垣根涼介先生の書き下ろし新作「ゆりかごで眠れ」を読みました。ゆりかごで眠れ


ちょっと、クールなペンネーム「涼介」のため、
かっこつけすぎじゃないの、と思って、著書を手に取っていない方は、
もったいないことをしておりますよ。


垣根先生の作品のいいところは、登場人物の生き方に、
すがすがしさを感じるところですね。


ハードボイルド小説の主人公というと、
なんとなく、どろどろして、もう救いのないような生き方を
しているような人型が多いような気がしますが、
垣根先生の場合、最後は、みな、なんとなく、救われるんですね。


死ぬんですよ、しかし、救われるんですよ。


つまり、魂が救われるとでもいうんでしょうか。
ああ、ようやく死ぬてよかったね、みたいな。


だから読後感は、非常にいいです。


出世作となった「ワイルドソウル」なんかは、
日本で一暴れして、最後は、みんなハッピーという結末だったように
記憶しておりますが、
今回の「ゆりかごで眠れ」の結末は、形的にはアンハッピーです。
その点は、本作とワイルドソウルは、違いますね。


しかし、そのアンハッピーな結末であっても、
後から予想される事態(けっして本編には書かれることがない)に
対しては、作者は、先回りして、決して悲惨なものにならないように
作り込んでいます。ちょっと手厚いくらいに。


垣根先生が書きたいテーマってなんなんでしょうかね。


南米から見た日本か、南米人からみた理想の生き方か。
それともばっさり割り切って、エンターテインメントというでしようか。
南米流の暴力を日本を舞台に展開する爽快感ということに、特化するとか。


少しだけ、重箱のスミをつついてみると、
人物の設定が若干荒いような気がします。
「妙子」は、なぜ「異星人」としてしか生きられないかのか。
「竹崎」もまたなぜ、日本国内では、異分子のような生き方をしているのか。
このあたりがちょっと書き込みたりないような。
ただし、バランスもあるしなあ。


「武田」も、最初は、主人公の「リキ」と相対する重要人物のように
登場してきたのに、案外あっけなく、去ってしまいました。
なんだったんだか… 所轄の係長で「警部」はないよ、しかし。
この点は、そのうち訂正が入るでしょう。武田は、謎の存在です。



とはいえ、主人公のリキとカーサの絡み合いは、見事です。
カーサがいなかったら(そういう設定ミスはこの作者の場合なさそうだが)
リキは、両親を殺されたことで絶望に身を起き続けた孤独なリーダー、と
いうことになったでしょう。


ワイルドソウルを読んだ方も、そうでない方も
なかなか面白いエンターテインメント作品です。おすすめ。ワイルド・ソウル〈上〉 (幻冬舎文庫)


付け加えるなら、時間があって、ワイルドソウルを読んでいない方は、
ワイルドソウルから、読んだほうがいいですね。
上下の文庫本も出てるし。これは掛け値無しの傑作です。