ドーン

平野啓一郎先生のドーンを読みました。


初めて平野作品を読みましたが、構成や舞台装置、小道具、人物などはきちっと用意して書くタイプのように思えます。


「散影」というシステムはありうるかも。いまでもグーグルに名前を入れるとぞろぞろと足跡が出てくる時代だし。


ただ分人主義というのはあんまりリアリティはなかったような…ネットとリアル、リアルでも会社や家庭向けの分人(キャラということ?)を存在させて使い分けるということは、自然にできることだし、それほど意識しなくてもいいんじゃないか、と。それともいまの「なんでも語りたがる」「表現したがる」個人の欲求の高まりが分人主義というものを立ち上げていくのかしらん。


いろいろ思考ゲームを楽しめる作品ではありますが、物語としては入り込めず。明日人という主人公にはまったく共感できなかったからかもしれません。明日人の悩みとか、心の苦悩があまり書き込めていなかったですね。子どもを亡くしてしまった喪失感みたいなものもそれほど感じられなかった。内省的な人物なんですが、その内省的な苦しみが分からない。明日人がひとりで処理して、たんたんと過ごしていくという印象。それは共感できそうにもない。「分かってくれ」と胸ぐらつかむようなこともなし。純文学的な主人公なんでしょう、これが。


仕掛けはエンタメ、しかし主人公が内省的で純文学系。そんな感じか。


ドーン (100周年書き下ろし)

ドーン (100周年書き下ろし)