病院選び


大きな手術を受けるにあたって、病院を選べるとしたら、どうしますか。

  1. 診断を受けた病院、または紹介先の病院で受ける。つまり医師まかせ。
  2. 診断をした医師の話はひとまず引き取って、知人・友人その他詳しそうな人に聞く。または参考になりそうな本や雑誌・新聞を読んでみる


1、2のどちらかでしょうけど、たぶん大多数の人は、1です。つまり「先生お願いします」というわけですね。専門家なんだろうから、間違いはないだろうと考えるわけです。


確かに医師は、専門家です。しかし専門家にもいろいろあって、同じ診療科がみる病気でも、けっこう違うんです。患者からみると同じに見えますが。医師からすると大違い。


私の父は、脳腫瘍で亡くなりました。診断されて治療を受けたのは、福島市内の福島県立医科大学病院でした。脳外科が診療科で、先生方は、よくやってくれたと思っています。


最終的に、手術しないで、放射線治療だけにしたのは、腫瘍の場所と大きさがよくなかったということもありますが、そもそも、福島県立医科大学病院の脳外科では、ほとんど手術ができないんだなと思ったからです。


というのは、福島の大学病院の脳外科は、脳外科でも、脳卒中が得意な脳外科でした。教授の専門が、そっちのほうだったもので。医局のほうにも自然、脳腫瘍が得意な先生がほとんどいませんでした。その時、福島の脳腫瘍患者はどこで手術しているのか、という考えたくらいです。


医師に任せるというのもいいんです。その病気に強い専門家ならば。でもその前に、「先生の専門はなんですか」と聞いたほうがいいと思います。同じ診療科でも、かなりちがうものです。


で、2のように、医師の話をひきとって、自分で調べてみるのになにが参考になるでしょうか。


最近は、なんでも手術件数が多い病院はそれなりに信頼できる、という前提のもとに、病院選びの企画が新聞、雑誌で組まれています。


7月1日の読売新聞では、脳腫瘍の手術件数でした。それで、こんなことを書いているわけですが、やはりというか、福島県立医科大病院は、手術件数が少なすぎたのか、一覧表に載ってさえいませんでした。さらに目を引いたのは、宮城県東北大学病院も一覧表にないんです。


父が、手術か放射線治療かで家族が悩んでいた時に、私がひととおり、調べたところでは、福島市かいわいで脳腫瘍の手術をうけるならば、東北大病院だろうと思っていました。東北大は、脳血管の手術をする診療科と脳腫瘍の手術をする診療科がそもそも別の成り立ちから来ているので、脳腫瘍は得意なはずなんです。手術件数も東北ではかなり多い病院でした。その東北大がのっていないっていうのは、たぶんアンケートの回答をもらえなかったんじゃないのかしらん。


最近、手術件数をたずねるアンケートが複数の報道機関から寄せられるため、もう回答拒否の病院がけっこう出ていると聞いています。その点、アンケート結果公表にあたっては、注意書きをいれてほしいと思いますね。東北大からは、回答を得られなかったと。


このたぐいの手術件数で病院選びについて、読者はどう読むべきか、ちょっとだけかいておきます。


本日の読売の脳腫瘍は、脳腫瘍の種類別の手術件数が出ていました。でも数字って、手術の中身は全然分からないんですね。あたりまえですが。


手術件数では、医師の腕、得意な手術方法までは分からない。患者にとっては、この手術方法が実際治療をうける時や受けた後に重要になってくるんですが、件数では分かりません。


件数が多くこなしているから腕がいい可能性がある、とはいえるかもしれませんが、それもまた一面です。


たとえば肺がんで説明してみましょう。


肺がんは、東京・築地の国立がんセンター中央病院が手術件数では圧倒的に多いです。だいたい年400件くらいの手術を行っています。入院期間も短く、医師は実際凄腕ぞろいです。


ですが、国立がんセンターは、糖尿病とか心臓に病気を抱えた肺がん患者はあまり得意ではありません。がんセンターなので、糖尿病や心臓病をみることができる内科の医師がいないからです。だからがんセンターは、そういう患者は、虎の門とか慈恵大とか聖路加、東京女子医大とか。近くの大きな総合病院などにかなりの人数をまわしています。


国立がんセンターには、紹介状なしにいきなり外来でたずねる患者もかなりいらっしゃるようですが、注意したほうがいいでしょう。がんセンターに行った分だけ時間が無駄になる心配があるので、覚えておいたほうがいいと思います。


いろいろ書いていくと、病院選びは、とても難しいように思えますが、実は、そんなことはなくて、患者の病状にあった専門医をピンポイントで探せばいいのです。あくまで手術件数は参考にして。どの医師がその特定の患者にあった医師かどうか知るには、それこそ主治医に聞けばいいと思います。教えてくれない先生もいるかと思いますが、国会図書館でひととおり、文献を検索してしらべればだんだん見えてきます。うーん、慣れないと、むずかしいでしょうか、やはり。


もうひとつ、追加で。くしくも7月1日の日本経済新聞、213のがん診療連携拠点病院のうち、放射線治療の専門医と抗がん剤の専門医が常駐している施設は、半数未満であることがアンケート回答で分かったと報じられてしました。


放射線治療はともかく、抗がん剤治療は、手術した外科医が行っているところも多いと聞いています。外科医のなかには、腫瘍内科医も顔負けの抗がん剤治療ができる医師もいると聞いています。その点については日経は書いていません。確かに、抗がん剤は、腫瘍内科医がみるのが理想かもしれませんが、学会認定の専門医は少ないし、形だけ整えてもしかたがないような気がしますが… この点どんなもんでしょうか。