Gファイル


武田頼政さんの「長嶋茂雄と黒衣の参謀」を読みました。


94年から96年の4年間、長嶋監督に仕えた河田弘道さんをめぐるスポーツノンフィクションです。スポーツ選手のインタビューを元にした通常のスポーツノンフィクションと趣を異にしているのは、河田さんが長嶋監督に送り続けた報告書Gファイルをもとにしているからでしょう。巨人軍の内情、フロント、コーチの権力闘争をつまびらかにしたという点では、これまでに読んだことがないほどの迫力です。スポーツに限らず、これは、ノンフィクションの傑作です。
長嶋茂雄と黒衣の参謀 Gファイル


国民的英雄の長嶋監督のかげには、フロントにもコーチングスタッフに属さない一人の参謀がいた、ということだけでも十分興味をかき立てられます。河田さんの存在は、確かに週刊誌などでも一時しきりに取り上げられました。ただ、興味本位の記事だったので、それほど河田さんの存在・役割に信憑性があるのか疑問にも感じていました。


今回、この本を読むことで、河田さんの役割というのは、すさまじいものがあったということがよく分かりました。長嶋監督の采配に対して、批評を加え、選手への声のかけ方まで指導していたわけです。そのほか、河田さんの仕事は、外国人選手の獲得から国内のスカウティング、選手らのけがの未然の防止、メンタルヘルスのチェックまで及んでいました。


徹底していたのは、長嶋監督を支えるこれらの業務を完遂するために、チーム、球団、読売新聞本社、選手の周辺まで幅広く情報を収拾していた点です。大リーグへの入団を一時目指した桑田の不可解な動きとヤクルト野村の関わりもつぶさに書かれています。堀内に対しての手厳しい記述などもあり、現在まだ球界で活躍している人たちがいるのに、ここまで書いてしまっていいのかしらん、という気もします。ただそれだけ、指摘は腑に落ちるものばかり。書かれた人は反論があれば反論してほしいですね。


最後に、長嶋監督と河田さんは、決別します。結局、巨人の監督であり続けたかった長嶋と、「常勝長嶋ジャイアンツ」を合理的な球団運営で成し遂げたかったという河田さんの間では、温度差がありました。筆者の武田さんは、Gファイルの一部(全部開示すると大変なことになるらしい、選手への事前交渉とかもろもろ)を2005年春に目の当たりにしたそうです。長嶋監督は、すでに脳梗塞で倒れ、リハビリ中で、長嶋再登板の可能性は低くなっていました。それ以前に河田さんは、読売の渡辺恒雄会長と決定的に対立していたため、心もはなれていたのかもしれません。


日本のプロ野球経営を考えるうえでも、非常に参考になる本です。昨シーズン、今シーズンと外国人監督のチームが日本一になりましたが、選手のレベルはともかく、チームのマネジメントについては、米国流の管理手法のほうが強いチームを作れるということかもしれません。